どんなにすばらしい「かぶせもの」をしても歯の根の管(根管)が病気のままではなんにもなりません。目に見えない歯肉にかくれた部分、つまり根管の治療で歯の命が決まるのです。歯内療法とは、文字通り「歯の内部の治療」のことですが、通常は根管に関した治療をいいます。歯の中には俗に「神経」と呼ばれる歯髄という柔らかい組織があり、根の先のほうの小さな孔で顎の骨の中の神経や血管とつながっています。この歯髄がむし歯(う蝕)や外傷で細菌の感染を受けた場合には、歯がひどく痛んだり、歯肉が腫れたりします。こんな場合、その歯を救い、さらに長い問機能させるため、歯髄を除去し歯を残すような治療をします。それが歯内療法(根管治療)です。まず変質してしまった歯髄を除去し、歯髄のあるところ(歯髄腔)とそれにつながる根管の壁を少し削りながら全体をきれいに清掃します。歯髄腔の形や根管の数や形は歯の状況により皆ちがいます。しかも肉眼では見えない部分ですからレントゲン写真や手術用顕微鏡等を頼りに繊細な熟練を要する作業になります。その後この空間を根の先(根尖)まで隙問なく害のない材料で満たします(根管充塞)。時間もかかります。それをどこまでやるかこれが歯科医の良心です。

 歯髄のある歯(有髄歯)を生の木とすると歯髄のない歯(無髄歯)は枯れ木と同じで生の本は容易に折れることはできませんが、枯れ木は水分もなくもろく簡単に折れるように無髄歯も非常にもろく割れやすいのです。色も変わり黒ずんできます。特に前歯では土台(ファイバーコア)をたてて冠をかぶせることにより歯そのものを保護するだけでなく、機能的、審美的にも満足が得られ長期的な予後が期待できます。根管治療で悪い所が充分削れていなかったり、根管充塞が完璧でないとすき間から細菌が侵入し、数ヵ月から数年後に根尖のまわりがおかされ、徐々に膿の袋を形成してきます。これらは腫れや痛みなどの自覚症状もないまま徐々に進行していくのです。この根尖の病変は一刻を争うものではありませんがそのままにしておくと歯を支える歯槽骨から顎の骨まで病変が拡がり大手術を要することにもなります。レントゲンを撮ってみるとわかりますので根管の健康にも関心をもって欲しいと思います。